「交通事故」


毎年、交通事故で死亡される方は一万人を超えている。「交通戦争」と言われるくら い、日本の状況は悲惨である。余程のことがない限り、日々、死んでいく被害者のこ とは新聞やテレビでも報道されなくなった。このような当たり前の死亡事故に加えて 統計的にいったい、どれくらいの交通事故が起こっているであろうか?即死も含めて 重傷者、軽傷者を入れるととんでもない数字になるはずである。実際の戦争でも年間 にこれだけの犠牲者が出ることは少ない。先の大戦では未曾有の犠牲者が出たが、最 近の各国で勃発している戦争でも考えられない数字である。車は走る凶器だとか、棺 おけと呼ばれているのも無理はない。こちらが安全運転を心がけていても相手がある ことだから、一方的に犠牲者になる可能性は充分あるし、例え車に乗らなくても歩行 者でさえ危険に晒されることは日常茶飯事である。先日も危うく衝突事故を起こす寸 前で回避した経験がある。一旦停止を確認して右折しようとしたら、猛スピードで 突っ込んで来た車があった。慌てて急ブレーキを踏んだら、あと数センチもないとこ ろで相手の車が止まった。若い女性ドライバーであった。車から出て来て「すみませ ん」の一言もなく、自分の車に傷がついていないかを一生懸命調べているのである。 呆れてものも言えなかった。最近はこう言うドライバーが増えているのも確かであ る。歩行者をはねて、すぐに二重事故を防ぐ手段を講じたり、直ちに救急車を呼ぶ手 配をしなければならないのに、まず最初にしたことは自分の車の痛み具合を調べてい る手合いである。人の命より愛車のことを大事にする輩に多く、ある意味精神的に欠 陥を持っているのではないかと疑ってしまう。車は単なる交通手段であって飾り物で もないし、生命を持たない機械であるが、その丈夫なボディは運転手の身体を守って くれているのである。自損事故でも多少、傷がつこうと、凹もうと「ああ、これで済 んで良かったな」くらいに思えないのだろうか?私などは自損事故を起こしたり、他 人から当てられて壊れたとしても、自分も含めて同乗者に怪我がなかっただけでも ほっとする。 家の中がひっくり返っていても、車だけは毎日、ピカピカに磨き上げ、車内の飾り付 けに凝ったり、土足厳禁などの車を運転しているドライバーもいるが、そんな人に 限って、愛車を気遣うあまり、友人などを乗せても逐一、その人の汚れ具合や行動を 気にする人もいる。例えば靴が汚れていたり、シートベルトを元に戻す際にどこかに 触れて金属音をしただけで「汚れを落としてから乗ってよ」とか、「もっと優しく戻 してよ」と言う人もいる。土砂降りの雨が降って来て、一刻も早く乗車したい人は靴 の汚れなんか取っている暇はないし、自動的に戻るシートベルトにまで気を使う人は 少ないと思う。ローンで買った愛車を少しでも汚したくないし、かすり傷をつけたく ない人は一人で運転することだ。そして、事故を起こしてもひたすら自分の運転の未 熟さを隠して、相手が悪いと主張すれば良い。但し、被害者になっても一切、加害者 には文句を言わず、大事な車に傷をつけたことをお詫びすれば良い。

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