「小話4題」平成14年8月2日、トラやん記

過去に書いた小話をエッセイとしてアップしました。

「三ヵ月後のパンツ」

 それは数年前の出来事だった。和歌山は衣奈漁港に友人と連れ立って
キス釣りに行った時のこと。漁港左側の岩場で竿を出していたが、当日
は猛暑でいても立ってもおられなかった。友人と二人でエイ!と
目の前の海に飛び込み、つかの間の泳ぎを楽しんだ。もちろん、パンツ
一枚である。帰るまでに乾くだろうと、岩場にそのパンツを干して
いたのだが、納竿間際に突然の夕立が来て、慌てて、そのままズボン
だけを履いて逃げ帰ってしまった。三ヶ月後、同場所に釣りに来た
時に、ふと、岩場を見ると・・・
なんと見たことのあるものが置かれてある。
そう、トラと友人のパンツが風雪に絶えて生き残っていたのである。

「幽霊見たり枯れ尾花」

丹後半島は日置での体験。
あるクラブの例会で観光バスをチャーターして夜中の2時に現着した。
バスの車内で役員から各自にポイントの地図が配られてあったので、
トラはかねてから狙っていたポイントに絞っていた。かなりの距離が
あるので、皆から離れてテクテクと一時間ばかり歩いて到着した。

200メートルほどの小さな浜だが、如何にも大物キスが潜んでいる
様子。ただ、後方に墓地があり、古い神社と思える建物が並んでいる
のが不気味であった。出来るだけそちらの方向を見ないようにして、
仕掛けを投入してアタリを待った。晩秋なので、夜明けにはまだ時間が
あり、ひたすら、タバコを吸って気を紛らわせていた。

すると、突然!後方からジャー!と言う音がしたので、振り返ると
白い着物を着た若い女性の姿が・・・・・。
一瞬、髪の毛が総毛だった。「出た!」と思ってその場を離れようと
したが、なんせ、慌てているので道具の撤収もおぼつかない。
やっとの思いで片付けて、もう一度その方向を見るとまだ、その女性が
後ろむきに座っている。東の空がうっすらと明けて来ているのにおかしい?と考え直
し、勇気を出してその女性の所にそっと近づいた。

そうです。その女性は何か祈祷する必要があって、水垢離に来ていた
のです。井戸水をひたすら被りながら何か唱えておりました。
白い着物は水垢離の衣装だったのです。「この寒いのに何もこんな
時間に」と思いましたが、祈祷している姿を見られたら願いが薄れる
と言うのも知っておりましたので、そのまま、現場を立ち去りました。

幽霊見たり枯れ雄花。白い着物に騙された昔日の思い出ですが、全身を水でしっとり
濡れたその時のなまめかしい美しい身体の曲線が忘れられません。

「買ったのではありません」

昨年、カレイシーズン突入後に友ヶ島に釣行した時のこと。
朝一番の船に乗り込み、A級ポイントの桟橋で竿を出すも、
本命は釣れず。最終の船が4時過ぎに出るので、徐々に
竿をたたんで、残りの竿一本に近くでアジ釣りをしている
おばさんから貰った生きの良いアジをもらって泳がせ釣りを
した。力糸の部分に網袋を装着した仕掛けであるが、厚かましく
アミエビも一杯分だけ頂戴した。

まったく、冗談のような釣りで
あったが、遠くに最終便の船が見えてきた時に島の管理人が
「兄ちゃんの竿当たってるで!」と言った。「ウッソー!」とまるで
女高生見たいな黄色い声を上げて、トラは竿を持ってリールを
巻こうとした。ところが、簡単にリールが巻けないのである。

竿は極限まで曲がり、根元から折れそうな感じである。とにかく、
相手が弱るまで待って、ゆっくりと寄せて来た。近くに来ると
横っぱしりしたので、カレイやチヌでなく、スズキだと思った。
ところが、傍で見ていたギャラリーが「青物や!」と言ったので
良く見るとまるで大砲の弾のような青い背中が見えた。

さあ、それからが大変だった。タモはないし、桟橋の上に上げるには
重すぎる。ハリスは8号なので切れることはないと思ったが、逆に
魚のクチビルが切れるのではと心配であった。

桟橋横の鉄製階段を利用してソローと寄せて来た時に島の管理人が
ハリスを持って抜き上げてくれた。横たわった魚はブリまでいかないが
立派なメジロであった。実寸72センチ。投げの外道としては最高級の
魚であった。周囲で見ていたギャラリーから拍手喝さいを浴び、照れくさかったが、
とても嬉しかった。ちょうど、最終便が接岸したので、竿を
片付け、魚をクーラーに・・・・・?入らない!
どうしようと思っていたが、名案が浮かんだ。確か桟橋に備え付けの
ゴミ箱に大きなビニール袋が捨ててあったはず。少し汚れていたが、
海水で洗ってメジロを仕舞い込んだ。頭の部分が突き出ているが
何とか持って帰れるだろう。

二十分後、加太港に到着。止めてある原付バイクのハンドルに
メジロ入りのゴミ袋をぶらさげ、勇躍、帰路についた。
自宅までは約一時間の道のりだ。ところが、この帰路でとんでもない
恥ずかしい目にあったのである。信号で停車するたびに横に止まって
いる車の窓が開き、「わあー!大きな魚や」と言われるのである。
それだけなら、良かった。そのあとに必ず・・・・・・・・・?
「きっと何も釣れんかったから、買ってきたんやろな?」
が続くのであった。仕方あるまい・・・・・・(泣)
とにかく、メジロの頭の突き出たゴミ袋をぶらさげているのに、後部には
しっかりクーラーが縛り付けてあるのだから。自宅に帰りつくまで
一体、何度この言葉を投げつけられたかわかりませんが、帰宅後、
家の者にまで「高かったやろ!」と言われたのにはガックリ来ました。

「赤っ恥演奏会」

バンドを結成していた紅顔の美青年?だった昔。
三重県は大王崎の手前にある御座白浜で演奏
途中に腹が痛くなり、簡易トイレに駆け込んだ。

パンツを下ろし、力んだ所へノックの音・・・
入室した時にトイレのカギが壊れていたので、
やばいかなと思いながらの用足しであった。

「入ってます」と答えたのにいきなり、バタン!と
扉を全開にさせられた。ビキニ姿の若い女性が
「キャー!」と言いながら扉も閉めずに走って行った。
外ではトラの仲間の演奏に合わせて踊っていた
お客がいっせいにこちらを振り向いた。