『金沢の釣り師から3』
須々木 徹記

「鱸の獲り方は」

スズキ釣には色々な釣り方があります。
奈良時代の高貴な人々がスズキを好んで食べていたことを示す事実があります。
それは、和銅5(712)年に献上された古事記(太安万侶撰)のなかで「大国主神の国譲り」の
編で述べられています。

大国主神が出雲国の多芸志(たぎし)の小浜に神聖な神殿を造り、水戸神の孫の櫛八玉神
(くしやたまのかみ)が料理人になって神饌を献上することになりました。
櫛八玉神が鵜になって海底の泥や海藻を集め、これでたくさんの平たい土器や臼、杵を造り、
お祝いの詔をささげましたが、その中に、「たく縄の千尋縄打ち延へ 釣せし海人の 
口大の尾翼鈴寸さわさわに控き依せ騰げて」と万葉集に柿本人麻呂の和歌が載っています。

千尋の長い延縄を海中に延ばして海人の釣る、口が大きく尾鰭の見事な鱸(スズキ)を
ざわざわと賑やかに引き寄せ上げて、載せる台もたわむほどにたくさん盛り上げて、
魚の料理を献上しました、という一節です。
この記述から出雲国ではスズキを延縄でとり食用にし、神に捧げる神饌としての魚で
もあったということがわかります。

これらから奈良時代には既に延縄漁がされていた事がわかります。
この外にも、「鈴寸取る 海部の灯火 外に谷 見ぬ人故の 恋ふるこの頃」と云う
のもあります。柿本人麻呂の乗った船が藤江の浦(現兵庫県明石市)の沖を過ぎるとき、
スズキを釣る海人の釣り舟と出会ったときの情景を歌っています。

この歌から瀬戸内海でもスズキを漁獲していたことが知れ、日本海側の出雲国、太平洋側の
参国、瀬戸内海の藤江の浦、そして、内陸の河川にある山城国と広い水域でスズキが
とられていたようです。この様にして、確実に奈良時代にはスズキが釣られていたのです。

どんな針を使っていたのでしょう、大伴家持が越中の国司をしている時に、能登を巡察した
記録が残っていて、その目的は租税調査が主で、当時の「職員令」大国条によれば、
「凡そ国内に銅鉄出だす処あらむ、官採らずは、百姓私に採ることゆるせ、
若し銅鉄を納めて、庸調に折ぎ充てばゆるせ、自余の禁処に非ざらむは、山川藪沢の
利は、公私共にせよ」とあります。

簡単に云えば、金属の産地は、発見次第朝廷に報告しなければいけないと云う義務が国司
には課せられていたのです。途中から何故か門前に出向くのです、理由が分からなかった
のですが、門前には製鉄遺跡が五十ヶ所余りあったそうで、仁岸川の支流で鉄川に遺跡が
多く発見され精錬をした跡が近年になって明らかになったのです。

針などの生産もされていたとか、勿論その当時としては鉄が産出されれば、刀や槍等の
武器を生産したのは推測がつきます。大伴家持は越中の国司として、武器を造る為の材料と
しての鉄に大きな関心を持っていたのでしょうね。
門前では針を作っていたと云われているので、能登は海に突き出た半島ですから、縫い針は
勿論、釣り針も作っていた事が想像されます。

さてどんな針を作っていたのでしょう。
当時延縄漁がされていたのですから、結構大きな針が作られていたものと思います。
能登の漁師は昔から海で魚を釣る場合、ねむり針を使用していました。
ねむり針とは針先の返しの先の魚に突き刺さる最も鋭利に尖らせてある部分が針の懐に
向かって曲がっている針を云います。

ねむり針が魚の口の中に刺さると針先が内側に曲がっているので、一旦掛かったら抜ける
事はありません。ねむり針の事を地獄針とも北陸では呼ばれています。
延縄漁であれば餌を付けてある程度海の中に仕掛けた侭になる訳ですから、針に食いついた
魚を逃がさない為には掛かったら外れないねむり針を使った事が考えられます。

大伴家持は武人でしたが、以外にもロマンチックで釣りを詠む事はありませんでした。
奈良時代の事はさて置いて、現在私達が使っている針は如何なのでしょう。
針にも色々あります、糸付きの針は手頃に使えますし、そして以外にも安く買えます。
自分で針にハリスを結ぶと手間も掛かるし、そして原価も高くつきます。
自分の好みのハリスを使い、好みの針を使うからです。

ただ、既成の針は機械で結んでいるので、たまには大きな魚が掛かると針が抜けてしまう事
があります。「あなたの会社の針を使っていて、大物がヒットしたら針が抜けてしまった、
如何してくれるの」と叫んでもメーカーは逃がした魚の補償まではしてくれません。
ハリスが魚の大きさに耐えられなく切れても同じ事です。

ヒットした大きな魚を釣り上げたければ、自分で信頼の置けるハリスに好みの針をしっかりと
結ぶ事です。これで大物が掛かっても針が抜けたり、ハリスが切れたりしても、あなたは
誰にも苦情は云えません、全てあなたの責任で結ばれたハリスと針だからです。
釣り場で見る釣り人の針は以外にも小さな針を使っている人が多く見かけます。

私は魚の口はそれぞれ結構大きな口をしているので、人よりは大きい針を使う事にしています。
スズキ狙いですから、餌はユムシしか使いません。
餌が大きいから小物がつつく事が少なく、大物が回って来た時に餌があるので食い付くのです。
私のスズキ釣りは邪道と人は云いますが、生餌を使うヒラメ釣りの様に針を二本使う
事にしています、二本ではなくて三本でも平気だと思っています。

スズキは巨口細鱗と云われています、大きなスズキになると私の拳骨が簡単に入ってしまう
位ですから、針のサイズや針の数なんて気にする事はないのです。
それよりも、何よりも確実にヒットしたスズキは獲ると云う事が大事です。
私は親針には、ねむり針二十号を孫針にはチヌ五号そしてハリスはフロロ六号を使っています

釣り上げたスズキは針を大概二本共飲み込んでいます。
口先に掛けなくても、飲み込ませて確実に口の中に針を二本共フッキングさせれば、どんなに
エラ洗いされても逃がす事はありません。石ガレイでも四十オーバーならユムシの二本針
仕掛けを飲み込んでいる位ですし、クロダイも四十九センチが飲み込み釣り上げています。
スズキだったら、恐らくは何の違和感もなく飲み込んでいる事と思います。
人から何を云われても私の信ずる方法でスズキを獲るのです、釣るのではなくて獲るのです。
それが私のスズキ釣りなのです。